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「小倉組といふと、下の工事場の方ですな」
喜作の方でも、房一の来るのを認め、
「あれだね、君は見かけによらない――親思ひなんだね!」
房一は思はず笑ひ出した。
二三度声をかけたが返事がなかつた。すると植込みの向ふの診察所の入口に白い服を着た看護婦の紅らんだ顔がのぞいて、すぐに引きこんだ。と思ふと、どんな風に廻つたのかしれないが、同じ顔が思ひがけなく今度はひよいと突きあたりの壁の横から現はれた。
だが、やつぱり戻らないで、しきりとこつちを見ながら行く。
「坊は?」
「あゝ、お医者?」
言葉つきは叮重だつたし、云つたことも何ら不自然ではなかつた。だが、その挑いどむやうな強い眼の色と全身に滲み出た一種圧迫的な怒気とはその表面の叮重さを明かに裏切つていた。効果は覿面てきめんだつた。
「それをよこしたまへ。二足なんていらんよ」
「折角のところを、突然でまことに失礼でありますが」
浴漕は中で二つに仕切られていた。それは一方が村の人の共同湯に、一方がこの温泉の旅館の客がはいりに来る客湯になっていたためで、村の人達の湯が広く何十人もはいれるのに反して、客湯はごく狭くそのかわり白いタイルが張ってあったりした。村の人達の湯にはまた溪ぎわへ出る拱門型に刳くった出口がその厚い壁の横側にあいていて、湯に漬って眺めていると、そのアーチ型の空間を眼の高さにたかまって白い瀬のたぎりが見え、溪ぎわから差し出ている楓かえでの枝が見え、ときには弾丸のように擦過して行く川烏かわうの姿が見えた。
稍意地の悪い、きびしい調子であつた。